祖先から伝わった危険な遺伝情報
危険を察知することは
私たちの脳みその中には、大昔の祖先から受け継がれてきた情報がたくさん詰まっています。
その情報の数々は遺伝的に受け継がれていて、現代ではもうとっくに役に立たなくなっているのにもかかわらず、しつこいほどに根強く受け継がれているものもあります。
原始的生活を営んでいる頃の古代人類が危険を察知して対応するのは大変重要なことでした。
野生動物や他の民族など、自分たちが住んでいる周囲の環境は決して安全ではなく危険な状態にあふれかえっていました。
そのような危険をいち早く察知して逃げ出すことができることで人はかろうじて生き延びることができてました。
逆に危険を察知できない人たちは対応できずに逃げ遅れ生命を失いました。
この生命にかかわる極めて危険なことですから、このような情報は祖先から綿々(めんめん)と受け継がれてきたのです。
危険を察知する能力とでもいうのでしょうか、その力が今でも受け継がれています。
ロープの例え
散歩をしていて行く先の前方の道端にロープが落ちていました。
そのロープを見て「ギャーヘビだ!」と思った人は、そこに立ちすくんでしまい、身体が震える思いをするはずです。
この震えるというのは、筋肉を動かしてより早く逃げる準備をするためなのです。
このような反応は反射的に起きるので自分ではどうにもならないのです。
原始時代の頃の人たちも、草原や林などでヘビを見たらすぐに逃げていたのでしょう。
それが毒ヘビなのかわからず、かまれた人がその毒で死んでしまうこともあったでしょうから。
そういうことを何世代も繰り返すことによって、現代の私たちの脳みその中に「ヘビを見たら危険を察知」する回路ができたのです。
そのために、「ヘビのように見えるもの」は、ロープであれヒモであれ、小枝であれ体を震えさせるという反応を引き起こしてしまうのです。
「v」の実験
ある面白い実験を米国ウィスコンシン大学のクリスティン・ラルソンが行ってます。
ラルソンは、いろいろな模様のスライドを120枚準備し、それを1枚1枚参加者に見せました。
その時の脳の活動を磁気共鳴機能画像法(fMRI)という装置で調べました。
すると、「V」のような下にとがっている三角形の模様を見せたとき、参加者の脳みその中で危険を察知する部位が大きく活性化したのです。
なぜ「V」字型の模様に参加者の脳みそが反応してしまうのか、しかも単なる「V」字なのにです。
やはり、それが危険なものとして認知されたからだということです。
どんな危険なのかを特定することはできないが、槍や矢の先端部分にも見えるし、ナイフにも見えます。
見ようによっては「ヘビの頭」にも、見えなくもないです。
自分たちが受け継がれてきたことは、かつては危険だったというだけで、今では全く危険ではないものにまで敏感に反応してしまうという面白い現象があらわれます。
見まちがえとはいえ、ヘビのように見まちがえたくはないですね。
私たちの脳みそは危険なものに対してすぐに注意が向くようになっています
そうしないと生き伸びることはできなかったのです。
綺麗な風景画と視線
ここにきれいな1枚の風景画があるとします。
そこには、綺麗な花や池や草木、大きな家、草をはむ牛などが見事に描かれています。
そして、その中にとても小さく目立たないように、1匹のヘビが描かれているとします。
さあ、あなたはその風景画を見せられて、真っ先にどこに注目しますか?
美しい花でしょうか、大きな家でしょうか、それとも池や牛でしょうか?
いいえ、たいていの場合、その風景画を見せられた人は、真っ先に目に入ってくるのは、とても小さく描かれたヘビなのです。
このことは実験で明らかになっています
自分にとって、ちょっとでも危険なものは、すぐに気がついてしまいます。
「ここには危険なものがあるぞ」とすぐに発見して注意を喚起してくれるのです
不思議なことに、この反応は田舎に住んでいようが、都会に住んでいようが関係はありません。
田舎ではヘビをみることはあっても、都会ではまず見ないですね。
それにもかかわらず、都会の人でもヘビを見るとすぐに気がつくのです。
危険を察知する能力は長い年月をかけて人類にそなわったものなので数十年都会暮らしをしているくらいではなくならないのです。
近代ビルのオフィスにヘビなどいるはずがないと、頭ではわかっているのですが脳や体は反応してしまうのです。
参考:すごい心理学(内藤誼人著)