大相撲の口上と精進の意味は
大相撲と口上
大相撲の力士が大関や横綱に昇進が決まると、日本相撲協会から派遣された使者が新大関や新横綱のもとに訪れて直接伝達し、新大関や新横綱は推挙を受託する意思とともに口上を述べる。
- 琴光喜:2007年7月の名古屋場所で、13勝2敗の好成績を収め、大関への昇進を果たした口上は
「いかなる時も力戦奮闘し、相撲道に精進いたします。」
- 若乃花:1993年に名古屋場所で優勝して大関に昇進した時の口上は
「一意専心、相撲道に精進します。」
一意専心:わき目もふらず心を一つのことだけに注ぐこと」
- 貴乃花:兄弟が大関に昇進した際の口上は
「今後も不撓不屈(ふとうふくつ)の精神で相撲道に精進します。」
不撓不屈:どんな苦労や困難にもくじけないこと
- 稀勢の里:2011年にが大関に昇進した時の口上は
「大関の名を汚さぬよう精進します。」
- 貴景勝:2019年が大関に昇進した時の口上は
「武士道精神を重んじ、感謝の気持ちと思いやりを忘れず相撲道に精進してまいります。」
などと述べています。
最近の口上の傾向としては、力士は口上の中で、必ず「一意専心」「不惜身命・ふしゃくしんみょう」(貴乃花の横綱昇進の時の口上)や「力戦奮闘」などの四字漢語で自分の決意を披露し、「相撲道に精進します」と結ぶのが通例になっているように見受けられます。
この中の「精進」は、あることに打ち込んで弛まず努力することで、大相撲の世界だけではなく、日常一般によく使っている。努力するということです。
もともとは、仏教の言葉で、仏教の菩薩の修行徳目の六波羅蜜(ろくはらみつ)の一つで、 悟りにのためにひたすら努めるのが本来の意味です。
精進料理
また、仏道を勇敢に実践し続けることの意味から転じて、世俗の生活を捨てて仏門に入ることや、斎(一定の日に戒を守ること)などの一定期間、言語・行動・飲食を制限すること、身心を浄めて不浄を避けること、魚・肉類を食べずに菜食することなどを意味するようになった。
引用:浄土宗大辞典
このように一定期間身心を浄める意味から、精進潔斎、精進日などの言葉が現れ、魚・肉類を避けた菜食料理のことを精進料理、精進物などと言い表した。
今も、ごく身近な習慣で、身内の不幸があって喪に服し、その期間が終わって普段の生活に戻ることを「精進明け」「精進落とし」などといいますね。
鎌倉時代に禅宗が広まるとともに、肉類は一切食べてはならないという菜食のみの精進料理が徐々に定着し、一般の人ににも広まっていったと言われています。
2004年に亡くなられた作家の水上勉氏は、若い頃に京都の禅寺で修行を積んだ方で、晩年に心臓を患い信州の片田舎で半農の生活を営むようになり禅寺時代の食生活を生かして、健康によい独自のメニューを創作した。
1997年「精進百選」として岩波書店から書にまとめられている。「くるみ豆腐」「煎餅芋」「衣がけ芋」「揚げだし大根」「大根葉のきんぴら」などがあり、この料理は素朴でしかも食指を動かすものです。
禅寺の多い京都にはプロの料理人が腕によりをかけた伝統的な精進料理店が有名です。
大徳寺や万福寺周辺の精進料理店はよく知られている。
道元禅師の心構え
仏教では、料理の準備や調理から、食事中のマナーや作法、後片付けにいたるまで、食にまつわる行動全般を修行の一環と捉えています。
日本の精進料理の礎を築いた「曹洞宗」の開祖の道元禅師は食事を作る人の心構えを「典座教訓」という書物にまとめている。
それによると
- 「食材に対する敬意を持つこと」
- 「整理整頓を心がけ、道具を大切にすること」
- 「食べる人の立場になって作ること」
- 「手間と工夫を惜しまないこと」
そして料理をする上で「三心(さんしん)が大切であること」などを説いています。
- 「喜心(きしん)=作る喜びやもてなす喜び」
- 「老心(ろうしん)=思いやりや気配り」
- 「大心(だいしん)=偏りや固執のないおおらかな心」
のことです。
さらに、調理法や味付けなどにも細かなルールを定めています。
現在は、そこまで細かく実践しているところは少ないようです。
代表的なメニュー
- 野菜の煮物:昆布や干し椎茸などでとった「精進出汁」で作る
- ごま豆腐:実際は胡麻をすりつぶして、葛粉と合わせ固めたもの
- 野菜の天ぷら:「精進揚げ」とも呼ばれる
- がんもどき:「もどき」は肉の代用品として作られた
- けんちん汁:食材を無駄なく使い、栄養を豊富にとることができる
私たちの、家庭でも食卓を賑わしてくれている料理ですね。
いただくときに、少しでも「精進」を思い出してください。
参考:浄土宗大辞典、じゃらん、仏教漢語50話(興膳宏著)、NHK