日本各地で山肌と残雪が織りなす「雪形」
白一色だった山々も、川の水がゆるみだす頃に雪も溶け出し山肌が見える部分がでてきます。
この山肌と残雪が織りなす光景をそれぞれの地元の人たちは何かの形になぞらえて、山の名前を付けたりしています。
例えば、
- 北アルプスの白馬山(2932m)は白馬の雪形に由来する・ネガ
- 中央アルプスの駒ヶ岳(2956m)や南駒ケ岳(2841m)も残雪が駒=馬の形になるところから命名された。ネガ
- 鹿島槍ヶ岳(2889m)鶴と獅子並んでいるよう・ネガ
- 北アルプスの爺ケ岳(2670m) 岩肌が種まき爺さんとみなして・ネガ
- 北アルプスの蝶ケ岳(25677m) 羽を広げた蝶のよう・ポジ
- 浅間山(2568m)通称「鯉」鯉の滝登りのようなことから・ポジ
- 福島県の吾妻小富士(1707m)ウサギの形から「雪うさぎ」、「種まきうさぎ」という・ポジ
- 中央アルプスの木曽駒ケ岳(2956m)「駒」と「島田娘」が見える・ネガ、ポジ
(現在は「白馬」の文字ですが、その語源は「代馬」。田んぼに水を張って土を細かくかき混ぜながら耕す「代掻き(しろかき)」を、昔は農耕馬の力を借りて行っていました。山麓の農民たちは、この雪形が現れると田んぼに水を張る準備を行ったそうです。)
そんな山肌と残雪がこの時期だけのコントランスを総称して「雪形・ゆきがた」と呼んでます。
また、上記のそれぞれの行の終わりに書いてある「ネガ」「ポジ」はの雪形の型のことです。
「ネガ型」とは、白い残雪の中で、雪の解けた山肌が黒く浮き上がっている形で、あたりは岩場やせいぜいハイマツの広がる場所です。
「ポジ型」とは、山肌の窪地になっている部分に消え残っている残雪の形です。引用:Wikipedia
雪形という言葉は、まだ新しく、かつてはそれぞれ固有の呼び名で呼び習わされているだけで、それらを総称して言う言葉はなかった。昭和の初期に「雪形」という言葉が広まった。
雪形の言葉が出るの前では、農事歴で使われることがあり農作業の始めや漁、節目などの時期の目安に用いられてきた。
雪解けによる雪形の変化に合わせて、代掻き、稲を植え、種まきなどをしていたのです。現在は気象予報の発達で農事歴に用いられることは少なくなり、現在では新しい観光地として注目されているようです。
雪形を名付けたのは、山岳民俗・信仰研究者の岩科小一郎(1907~1998)が1943年に考案した言葉です。
雪形の美しさを広めたのは、山岳写真家の田淵行男(1905~1989)。彼が発表した綺麗なモノクロ写真は雪形の美しさをより一層際立たせ、人々の心を捉えました。
こうして、雪形に関心が集まるようになり、遠く人里離れた登山道から見た雪形にも名前がつけられたりして、報告されている。
北アルプス五竜岳の雪形(武田菱)
かつての呼称は御菱岳(ごりょうだけ)。戦国時代の武将・武田氏の家紋であった◆を4つ組み合わせた「武田菱」にそっくりのネガ型の雪形が現れます。
常念岳の雪形(常念坊)
「常念坊」という名の修験者が徳利を持っているネガ型の雪形が現れる。
山を遠くから眺めても、登山の途中の道からも自分流の雪形の名前がつけられて楽しめますね。