32の星をコンパスにしたミクロネシアの伝統航海術「星の歌」
ミクロネシア連邦
オセアニアの海洋部の分類のひとつにカロリン諸島など4つの群島から構成されるミクロネシア連邦がある。
そのミクロネシアの原住民の間に受け継がれている伝統航海術の星の航海術があります。
星の航海術は地図やコンパスを使わず人間に備わっている野性的な力を最大限に引き出しシンプルで力強い方法なのです。
ミクロネシアはギリシャ語のミクロス(小さい)ネソス(島)から「小さな島々」という意味です。
その名の通り島が点在していて最大の島がグアム島になります。
ミクロネシアの航海者たちは島と島の位置が描かれた地図を歌にして覚えます。
その歌のことを「星の歌」と呼び長いものだと1時間以上の歌があるといいます。
「星の歌」なんてとてもロマンチックな名称ですね。
大海原に星を頼りに身体一つで歩き続けることができますね。
コンパスは夜空になりますね。
円周上に32の星を配置した「スターコンパス」を頭の中に描き、それと夜空の星たちを照らし合わせてチェックしながら方角を知り進みます。
宇宙からの星の光を自分の身体の中で解釈して進む方角を見極めることができるのです。
なんと素晴らしい技術ではないですか
僕は気が小さいので冒険はできませんが代わりに写真家(僕は冒険家と思っています)の石川直樹氏の本にのめり込んで一緒に旅をします。
石川直樹氏は中学生の頃からアルバイトをしては一人旅をしてテントと寝袋片手に国内をひたすら歩いたそうです。
今回の話も石川直樹氏のミクロネシア連邦のヤップ島に行き熟練の航海者の弟子入りして経験したことです。
熟練航海士はマウ・ビアイルグといい近代計器を一切使わず伝統航海術で数々の大航海を成功させているひとです。
1976年にはハワイからタヒチへ向かう実験航海にナビゲーターとして参加し1ヵ月かけて、双胴カヌーを導き一躍その名をとどろかしました。
マウによる講義内容はすべてサタワル語で行われ同じ弟子に助けてもらいながらそのサタワル語を必死に覚える努力もしたのです。
初日の講義は、基本中の基本の「スターコンパス」です。
自分の乗っている舟を中心に、円を描くようにして32の方位とその位置に出没する星を記憶します。
文字をもたないサタワルの人たちは抜群の記憶力です。
が、日ごろから文字を頼りにしてると書き写すだけで精一杯で、とにかく毎晩遅くまで星の名前を暗唱するのに必死だった。
ノートに文字が埋まって覚えなくてはいけないことは山ほどになりました。
マウに弟子入りした日から1ヵ月が経ち航海術の基本はひと通り教わり一時帰国しました。
再び、サタワル島への航海のために訪れマウと弟子たちが2年の歳月をかけて作った全長6mの小さなカヌーで総勢10人のクルーが乗り込んで出発した。
極限の航海
この静かな船出とは裏腹に、これからの航海に厳しい試練が待ち受けようとは、誰もが知る由もなかった。
マウはナビゲータだけがいることを許される小さな屋根の下に潜り込んだ。
「風がよけれれば 4,5日でサタワル島に着く」とマウは言っていた。
出港後、カヌーは風をうけて順調に進んでいました。
しかし、途中で風が止まってしまい帆をたたんで停滞する状態になりました。
5日目を過ぎて飲み水がなくなってしまいました。
積み込んだ水の量は島の人々の特有なおおらかで決めていたので、しかたありません。
こうなると、みんなが精神的に追うつめられてしまいました。
どうしようもなく、ただ、風が吹くのを祈るばかりです。
ライムをかじったり小さなシートに時々降る雨をためてなんとかノドの渇きをこらえていました。
カヌーは遅々として進まず、照り付ける太陽に痛いほど肌を焼き湿気を含んだ重い風で体中いつも潮まみれです。
とうとう同乗の一人のクルーが「舟が見える」とか「あそこに島がある」などとうわごとを言うようになり、なぜ着かないのかと騒ぎ始めました。
不安と厳しい生活に耐えかねたのか、その男は何か叫びながら海に飛び込みました。
何をしていいかわからず「これから一体どうなるんだろう」と考えました。
男は自殺を図ったようで、カヌーから離れようと必死でした。
仲間が飛び込み船からはロープを投げ、なんとか船の中に引き上げました。
この一件で、航海術が本当のものなのかという懐疑心や不安が増し冷静を装いながらも胸の奥がざわめいています。
希望の島
帆をあげてから9日目、かすかな点が鋼鉄のような海の先に見えたのです。
全身から力がみなぎり、視界の中に陸があるということがどれだけ嬉しく、人の心を心を落ち着かせてくれるかと初めて思いました。
海図のうえでもごまつぶほどの島と島を結びつけてしまうというマウの奇跡に立ち会い、伝承されてきた航海術が今も生き続けていることを僕の目で確かめることができました。
自分の中にある島を見失なわないようにすれば、きっと風は吹く。
マウは言います「心の中に島が見えるか」と。
参考:「いま生きているという冒険」・石川直樹著