神聖さと厳粛さを伴う瞬間「神聖なる土俵入り」
土俵入りは横綱だけではなく、十枚目土俵入り、幕内土俵入りがあります。
意外ですね、横綱土俵入りはよく聞きますし、テレビなどでも奉納されているのを見ますからお馴染みですが他の2つがあるとは知らない人が多いと思います。
十両と幕の内の土俵入り
十両と幕の内の土俵入りは、お客さんの前に力士が勢揃いして顔見せをするという意味合いが強い儀式的な色が濃いようです。
十枚目土俵入りは幕下下位の取り組みを五番残したところで行い、幕内土俵入りは中入りで行われます。
どちらも作法は変わりません。
その日の取り組みの東西に分かれ、奇数日は東方力士から、偶数日は西片力士から顔見せをします。
幕内土俵入りでは、呼び出しの拍子木を合図に横綱以外の力士が幕内行司か三役行司を先導に化粧まわしをつけて入場を始めます。
昔は、しこ名の紹介はなかったのですが、現在では「先頭は〇〇、何々県出身、〇〇部屋」と呼ばれながら列を組んで入場します。
土俵に上がると左回りに一周し、最後に上がった力士の掛け声で中央を向き、拍手を一回、そして右手を上げ、化粧まわしを両手で持ち上げ、離して両手を上げます。
これが一連の動作で、東方(西方)がこの所作を終えて退場すると続いて東方(西方)が同じことを行います。
横綱の土俵入りとは随分違いがありますね、この十両や幕の内の土俵入りは由来がわからず、簡略化された土俵入りだとの説もあるようで、そうかもしれないと思われます。
土俵入りの所作と意味
右手を上げ、化粧まわしを持ち上げ、両手を挙げる所作は、それぞれ
- 塵上手(ちりちょうず):大相撲の作法のひとつ。 蹲踞の姿勢で揉み手をしてから拍手を打ち、両手を広げた後、掌をかえすもの。
- 三段構え(さんだんがまえ):相撲における基本体を伝える、上段・中段・下段の三種類の構えのこと。
- 四股(しこ):相撲の動作のひとつで、力士が土俵の上で片足を高く掲げ、強く地を踏む所作のこと。
これらを簡略化したものだと言われている。
横綱土俵入り
一方、横綱土俵入りは古い記録が残っていて、史実として確認できるのは寛政元年(1789年)十一月の第4代横綱の ”谷風” と 第五代の ”小野川” が行った土俵入りです。
しかし、当時の力士の地位は大関が最高位で、横綱というのは地位を表すのではなく、大関の中で儀式を行えるだけの品格を備えた力士に神社の注連縄(しめなわ)と同じ縄を締めさせたのが始まりといわれています。
番付表に「横綱」の文字が記されたのは、かなり後で、明治二十三年(1890年)五月場所の第十六代横綱の ”西の海” が初めてですが、この時も最高位を表したのではなく、西の海は大関でした。
横綱土俵入りは本場所では、中入りの幕内土俵入りの後に披露されます。
横綱の左側には露払い、右側には太刀持ちが蹲踞します。
横綱は両腕を左右に広げて、清浄を表す「塵手水」を行い、その後に土俵中央に進み拍手し四股を踏みます。
次いで「せり上がり」と呼ばれる、腰を十分に落とし小刻みに足を運びながら状態を起こしていきます。
最後に二度四股を踏んで元の位置に戻り、塵手水をして土俵を下ります。
四股は厄災を追い払う意味があり、塵手水は大気中の塵(水分)を集め、周囲に撒いて清める意味があり、土俵入りでは大きく手を揉むことが大事なことと言われています。
雲龍型と不知火型
横綱土俵入りには二つの型があります。ご存じ「雲龍型」と「不知火型」です。
大きな違いは、雲龍型は締めている綱に結び目の輪が一つで、不知火型には輪が二つあることです。
また、細かくいうと、せり上がりの時に雲龍型は左手を脇腹にあてがい、右腕を右前方へ流す形を取りますが、不知火型は両腕を外側前方に流す形を取り、そこからせり上がる土俵入りです。
雲龍型は攻守のバランスをとった型で、不知火は攻めの型と言われています。
いずれにしても相撲の基本型を演じて、五穀豊穣と平安を祈る神事なのです。
参考:力士の世界(33代 木村庄之助著)